「柱や梁だけじゃなくて、床や腰板にも、我が家の“杉林の木”が使われているんですよ。」
そう言いながら、M様は柱にそっと手を触れます。
薪ストーブが見守る吹き抜けのリビングは家族の憩いの場。
柱や梁、床や天井、腰壁など、あらゆる所に使われた“杉”が、築後8年経って落ち着いた風合いに変化しています。
ご家族が先祖代々育ててきた“杉”の木から、M様のお家ができるまでには、こんなお話がありました。
アオサギが空を舞い、田んぼや畑が広がる農村地帯。見上げるような高さの杉林を過ぎると、落ち着いた外観のM様のお宅が見えてきます。
M様のお父様が手入れする和風庭園と、ご家族が大切にしている花々が咲き誇る庭がお出迎え。
玄関前には雁木があり、雨や雪の日にはこの雁木が「雪を払ったり、除雪道具を置いたりと、本当に重宝している」そう。
玄関に入ると、無垢の杉の美しい木目が広がります。杉板は床板としてだけでなく、腰板や天井にも使用されており、8年経って風合いを増しています。
「杉の床は普通より厚めにしてもらったから、足元があったかいんだよね。夏はさらっとして涼しいし。厚みの感覚がちがうよね。」そう言って足踏みされるM様に、お話をうかがった私たちも思わず足踏み。足への衝撃が少なく、床からやさしさが伝わってくるようです。
「こちらへどうぞ。」
案内されたリビングに入れば、薪ストーブの煙突が目を引く吹き抜けの開放的な空間が。
大きな窓からのやわらかい光が、杉の木に囲まれた部屋全体をあたたかく包み込んでいます。
雪の重みにもびくともしなそうな太い通し柱を見上げれば、「この柱も、差し鴨居も、全部杉なんですよ。」とM様が教えてくれました。
「我が家には、先祖が植えて手入れしてきた杉の木があったから、それを家造りに生かしてくれる技術がある業者を探していた」というM様。
ある日、片建設の「地元の杉材を伐採して建てた家の見学会」のチラシが目に留まりました。
「これだ!と思って見学会に出かけて、『うちの杉林の木でも建てられますか?』って聞いたら、『できますよ』というのでいろいろ話を聞いてもらうことになって。」
他にも何社か見て回ってみたものの、業者を決めるのにそう長くは悩まなかったというM様。
「片建設の社長さんは、営業トークをする方ではないけど、木が好きなんだな、というのが伝わってくるんですよね。相談をした当初は『屋敷の木は手入れがきちんとされていなければ使えない』と言っていた社長さんも、実際に我が家の杉林の木を伐り出してみると、『いい木がたくさん出てきた、これは使える』と言ってくれて。あの時はうれしかったですよ。」
そして、木を伐り出す作業が、間取りを考えるよりも先に始まりました。
「間取りも決まってないのに、社長さんは木を見て『これは床に、これは柱。こっちは腰板に・・・』って製材屋さんに頼んでいて、びっくりしたよ。」とM様はいいます。
M様の杉林は、家から歩いて5分ほどの場所にあるというので連れていってもらいました。
「昔はこの辺りの川でよく泳いだもんだよ。」
ため池や湿地の脇に通る道を通り、着いたのは見上げるほど高い杉が立ち並ぶ林。
青々とした杉の葉に朝露が光り、清々しい空気で満たされています。
「小さい時から当たり前のように、自分の親や祖父が杉を育てているのを見ていた」というM様。
子どもの頃は春先に、雪で倒れた杉の木を縄で起こして支える「杉の木起こし」の作業を手伝ったといいます。下草刈りや間伐、枝打ちなどをして、代々家族で手を掛けて育ててきました。
林の中に足を踏み入れれば、大きな切り株があちこちに。
「この木を使ったんですよ。屋敷の杉も合わせて150本ほどの木を伐り出して、2年かけて自然乾燥をさせました。」
あとで後悔しないように、「急いで建替えはしたくなかった」というM様にとって、2年という月日は、間取りやお金のことを考えるのにちょうどいい期間だったといいます。
2011年、杉林の伐採の様子。伐採は、木がより長持ちすると言われている12月の新月の頃に行われました。
古い家は、築45年くらいだったというM様の以前のお宅。自分がいわゆる「現役世代」の、元気なうちに建て替えたいと思っていたといいます。
「限界を感じていましたね。床がブヨブヨしたり、サッシに穴が開いてきたり。じいさん(M様のお父様)に建て替えたいという話をしたら、反対はしなかったです。」
M様のお父様は、「建てるなら、先祖が植えて、自分が手入れした“杉の木”を使ってもらいたい」ということを強く希望されたといいます。
それから、「前の家で使われていた木を、一本どこかに使ってほしい」ということも望まれました。
旧家の床柱を加工する様子
旧家の床柱・床の間で使われていた社木(神社に生えていた木)の古材は、材木を扱う仕事をしていたM様のお父様の想いを受けて、いつも家族の目に 入る玄関の飾り棚と飾り柱に再利用。
「社長さんは、じいさんやばあさんにも、『新しい家はどんな家がいいか、どうしたいか』を聞きたいと言ってくれましたね。意見を聞きたいから、みんな集まってほしいって。」
そしてそれぞれの意見を聞いて、新しい家造りが始まりました。
「外観は雪のことも考えて、『合掌造り』のようなシンプルな屋根にしたかったんです。」
ご家族は古い家の時は、雪で苦労したとおっしゃいます。冬期は雪囲いの板で家の中が暗く、北側の台所は寒くて仕方がなかったそう。
「社長さんの提案で基礎を少し高くしてもらって、屋根は軒先だけ落雪するようにして、残りの雪はそのまま屋根の上に乗せておけるようにしてもらったんですね。落ちた雪は除雪機で飛ばしやすいように、家周りにコンクリートを打った方がいいって言われて。正解だったね。雨樋も最低限付けてもらって、家周りは暗渠(あんきょ)排水にして、砂利敷に。雪のこともあるけど、この辺は杉林が多くて杉っ葉がすごいから。」
雪処理と、メンテナンスのしやすさも実現してもらったというM様。今年(2021年)の30年ぶりの大雪でも雪処理がしやすかったそうです。
冬でも晴れた日には陽の光が家の中まで入ってきてあたたかく、冬の過ごし方が変わったというM様ご夫妻。
リビングに面した通り土間には南側の大きな窓から日が差し込む。奥の寝室へとつながり、車いすの配慮もされている。
趣味のお花の越冬や、お孫さんが遊ぶスペースにも。(写真:M様提供)
吹き抜けのリビングに据えられた薪ストーブも、冬の楽しみの一つとなっています。
「朝起きて、薪ストーブに火を入れるのが楽しみです。朝起きるとだいたい室温が14度くらいで、日中は薪を焚いて、20度くらいで過ごしているかな。2階まであたたかい空気が上がるから、洗濯物がすぐ乾くんです。」
夏も、風が通る設計にしてもらったから、ほとんどエアコンを使わないというM様。
「北側の階段の方から、涼しい風が下りてくるんですよ。家の中で空気が循環している感じがするね。以前の家は湿気やカビがすごかったけど、今はまったく心配がないです。この家に除湿器はいらないかな」
「いつもはじいさんがしているんだけど」と言いながら薪割りを実演して下さいました。家族が手伝って、毎年初夏までに薪を薪棚に積み上げていくそうです。家の周りには3年分の薪が積まれています。
「5月ごろまで薪ストーブを使って、今くらいの時期に灰を出して、オイルで磨いて。梅雨時期くらいに煙突掃除もしますよ。」
暖炉の掃除や灰の始末はM様が担当しているといいますが、大変そうな作業も「火を見ていると、心が安まるんですよね。」とやさしい笑顔。
この家に住んでから、8年。
家を建て替えてから、春夏秋冬を楽しめるようになったというM様ご夫妻。
「毎日の暮らしは変わらないけど、こういう造りは飽きないよね。穏やかな気持ちで過ごせるのが何より。」
おじいちゃんおばあちゃんもまだまだ元気。
お孫さんたちも喜んで遊びにくる、早いうちに建て替えてよかった。
しみじみそう思うんだとおっしゃいます。
「和風の家の雑誌も買ったりしてこんな家にしたいな、とは想像していたけど、自分たちだけじゃ考えられなかった。できてみたら想像以上!片建設さんの技術に、本当に満足しています。
工事中も現場がいつもきれいっておばあちゃんもほめていましたね。大工さんも『何かあれば言ってくださいね』と声をかけてくれたし、現場監督の相羽さんもまめに現場に来てくれて。とてもよかったよ。」
M様は、改めて部屋の中をぐるっと見渡して続けます。
「先祖代々受け継いできた杉を使って家を建ててもらって、感無量だね。」
杉林にはまた、若い杉が植えられています。
次の世代のために。
想いをかたちにし、想いを受け継ぐ家造り。
この先もずっと続いていきますように。
■営業 金田から
今回お話を伺ったM様ご夫妻は、「自分が元気なうちに家を建てたい」という希望をお持ちになり、それを実現されました。しかし、お客様の中には、「同居するおじいちゃんやおばあちゃんが建て替えに賛成してくれない」という悩みをお持ちの方も時々いらっしゃいます。古い家にはおじいちゃんやおばあちゃんの「想い」があります。M様のお話を伺いながら、それぞれの想いに寄り添うことこそが、家族みんなが満足する家づくりの第一歩だと感じました。
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